2006年04月24日

10セントの小宇宙(ゆめ)

ネーデルランド首都・アムステルダム。

この街に限らず、酒場という場所は人と情報の集まる場所。

そして、人が集まればおのずとトラブルや厄介ごとも増えるというのが世の常であった。

*  *  *


「お客さん、やめてください〜(涙」
「いいじゃねぇか、ちょいと酌してくれって言ってるだけなんだしよぉ」

酒場の喧騒の中、一人の支給女がよっぱらいに絡まれている。ただそれだけなら別段珍しくもないのだが、運悪く彼女(いや、まだ少女といったほうがいい)は経験不足でそういった厄介な客のあしらい方を知らなかった。
客はそれが面白いのか、ますます度を越してちょっかいを出してゆく。

「まったく・・・しょうがねぇな。ヨハンナ! ちょいと助けてやってくれ」
 あきれ顔のマスターが、傍らで客の相手をしていたヨハンナへそう声をかける・・・が、それよりもすばやく動く影があった。


「一応こっちぁ客だぜぇ? 何もとって食おうってんじゃねぇんだし、ちょっとくらいいいじゃねぇかよぅ」
 下卑た笑いをうかべながらそうからかう男の背後に迫る小さな影一つ。

「はい、ビールお待たせしましたー」

ざばーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

元気な声と共に、男の頭からおもいっきり浴びせかけられたビール。一瞬何が起こったかわからない表情を浮かべるが、やっと理解したのか凄い剣幕で犯人のほうを向こうとする・・。が、振り向くがいない。もう酔ったのだろうかと一瞬頭をよぎるが、ふたたび背後から声がかかる。
「あとエダムチーズのグラタンでしたね? 熱いから気をつけてくださいね」
「・・・っつわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 そんなものをかぶせられちゃビールどころの騒ぎではない。あわてて飛び出すように席を離れる。
 彼が座っていた場所には、手にグラタン皿をもった、先ほどの少女とほぼ同じくらいに見える少女が立っていた。

「いっくらお客さんでも、やっていいことと悪いことがあるでしょ! 嫌がってる女の子いじめるなんて、それでも男!?」
 
 グラタンを手にしたままずい、と前に踏み出す。
 仮にも彼も船乗り。大抵の荒事には首をつっこんできて、普通に考えればこんな年端もいかない少女にすごまれても鼻でわらいとばせる筈。だった、が、何か違う。本能的にそう感じ取り、あわてて店を飛び出そうとした。
「まてっ!」
 それより早く彼女の手が彼の襟首を捕まえる。
「わ、わかった! 俺が悪かった! 謝るから!」
 恥も外聞も捨ててそうわめく男に、すっと右手が出された。
「・・・代金。ただ食いは良くないよね?」


*  *  *


「いててててて・・・。マスター、本気で殴るんだもんなぁ・・・」
「そりゃそうだよ、仮にもあんなんでも客なんだし、ああいう対応じゃ怒られちゃうだろ」
 酒場の二階。先ほど大立ち周りしていたセリス・ランバードは、マスターにおもいっきり殴られた頭のコブをヨハンナに冷やしてもらいながら愚痴っていた。
「そりゃあさぁ、私だってちょっとは悪いかもしれないけど、あの子本気で困ってたんだよ? それなのにしつこくからかうなんてさ・・・」
 セリスの愚痴は延々と続いていた。

 不意に開かれる扉、そして、そこに立つマスター。

「おう。セリスいるな? ぶっちゃけた話だが、明日から別ンところいけや、実はな・・・」
 入ってくるなり結論から突きつけられたセリスは、目の前が真っ暗になった
(ま、まさか・・・。そりゃ今までだって似たようなことしてきたけど、全部あっちが悪いときばっかりじゃない、確かに最初にここに来たときには調理手伝いできたんだけど、調理苦手でできることっていったら鶏とか魚さばくことだけだったけどさ、そえでもいままでがんばってきたわけじゃない。それなのに首だなんて・・・)
 頭のなかでさまざまな考えがぐるぐるまわる。
「ま、マスター、今回の件は反省してます! 今でもあっちが悪いってはおもってますけど、それでも私にまるっきり非がないわけじゃないですし、なんだったらまた裏方で皿洗いとか魚の解体とかだけでもいいですから、なんとか、首だけは勘弁してください! そうでないと、そうでないと・・・」
 捨てられた子猫のようにマスターに鳴きつくが、マスターは呆れ顔。
・・・終わった・・・私の夢・・・・。
 そう、覚悟する。ああ、このまままたロンドンに戻って一からやりなおさなきゃいけないのね・・・。

「・・・お前、今までの俺の話聞いてないだろ」
「・・・・・・・・・・・・へ?」





「・・・ってことは?」
「そう、お前がいたずら半分で書いてた副官申請書が、何の間違いかギルドのほうで通っちまっててて、しかも雇い主が現れたってんだよ。そうでなきゃお前みたいな猫の手でもこの忙しいのに手放すわけはねぇだろが」
 脱力。 いままでの私の泣きつきは何?という感じだけど、なんか一足飛びで「船乗りになりたい」って夢に近づいたみたい。
 そう、私こと「セリス・ランバード」が酒場でお金ためるために働いてたのは、私も船乗りになりたかったから。両親だけじゃなく、姉のエリスまで船乗りになったし、やっぱりランバード家は海に関係した職につきたがる傾向が強いみたい。まさか通るとは思ってなかった副官の話も、船乗りになれそうなチャンスだったから提出してみただけだったんだけど。
「ってぇことで、わかったらとっとと荷物まとめて明日指定の場所へいくんだぞ!」
「はいっ!」
 おもわず嬉しくて元気に答えたんだけど、ふと考えたら、そんなに長くなかったけど、この酒場のみんなともお別れになっちゃうんだよな・・・。そう考えたら
「・・・ま、手前のことだから、またへましてすぐもどってくるかもしれないけどな。 どうしても戻ってこなくなんなきゃならなくなったら、いつでも歓迎はするけどよ。 できれば次からは客として顔出せよ」

・・・マスター、ありがと。




* * *


「さて、セリ。そろそろアムステルダムだから寄港準備おねがいね」
 そんなんで、私は今船に乗ってる。まさか私を副官に雇ったのがエリス姉ちゃんだとは思わなかったけど。

「だって、あんたみたいなのじゃ、いつまでたっても雇い主現れないでしょ。申請書に何って書いて応募したのよ、セリの調理の腕は私が良く知ってるんだからね?(笑」
 そう。私の今の肩書きは船の副官のほかに「調理師」。
でも、誰に言わせても「兵長」とか「船医」とか。交易よりも戦闘系の職業のほうが向いてるって言われる。
 そういう点では「調理師」として雇ってくれた姉ちゃんには頭が上がらないわけで。

私を一番理解してくれる人がいる。
私を認めてくれる人がいる。

それだけが、私がこの船に乗る決意をした理由。
何も出来なくても、それでも私にだけできることもあるし、そしてそれを認めてくれた人がいる。それだけで十分じゃない。人と人なんて。

「セリー! 何ぼーっとしてるの!はやく寄港準備! そうでなきゃ今晩のご飯セリにまかせるよ!」
「わ、それは勘弁〜」
 ちょっとうるさいけど(笑)

みんなは、あなたを認めてくれる人に出会えた?



 

posted by エリス・ランバード at 00:45| Comment(1) | TrackBack(1) | エリスの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月30日

Little Wing

小さな翼は びくともしない
夜の向こうにある 未来目指すよ






ギルドを出て、胸いっぱいに潮の香りを吸い込む。
手にしているものは、僅かばかりのお金と船の権利書
それに「冒険者見習い」の肩書き。

これからの不安よりも大きな期待を胸に
エリスはリスボンの港へと足を進めた。




「どうした、嬢ちゃん。はじめての航海で緊張してるんか?」
 そんな船乗りの声でふと我にかえる。
あわてて声のほうへ顔を向けると、そこには釣竿を持った男性の姿。
もちろん、知らない人。
冒険者として身を立てるため、ポルトガルの国籍を獲得したとはえいえ生まれはイギリス。この国に知り合いなどいるはずもない。
「その格好からすると、なりたての冒険者ってところか?」
 私が肯定の意思を示すと、彼は笑いながら桟橋に腰を下ろし
私にも隣に座るよう促す。

 訳もわからずその申し出に従うと
彼はさまざまな海での知識を私に教えてくれた。

 時折私にも釣竿を持たせてくれながらの勉強はどのくらい続いたのだろう。
不意に私のおなかが時の流れを知らせる時報を鳴らした。
 赤面してうつむくと、彼は笑いながら「にしんの燻製」をくれた。
あわててお礼を言う私に
どうせ釣ったものを加工したものだからほぼタダみたいなものだし
といってまた笑い、二三度私の頭を撫で、そのままその場を去っていった。

 私が「勉強」のことでのお礼を言い損ねたと気がついたのは
それからしばらくしてからのことだったが。






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「まさか、船倉にあったニシンの燻製、そのときのじゃないよね?」
 副官で、私の妹のセリスがおそるおそる聞いてきた。
「まさか、いくら私でもそんなに物持ちいいわけないじゃない」
「なら、なんで? おねーちゃんの腕ならもっといいもの作れるはずなのに」

 あの後冒険者として、「釣り師」として活動を本格化させた私は
その後「調理」をも覚えていた。

「ニシンの燻製」が作れるようになってからは
かならず倉庫にはそれが保管してある。

あの時、右も左もわからない私にさまざまなことを教えてくれた
名前も知らない「彼」みたいになりたくて。
 
posted by エリス・ランバード at 00:10| Comment(4) | TrackBack(0) | エリスの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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